ドローンコラム:産業向けドローンに舵を切り始める大手ドローンベンダー

ドローンコラム:産業向けドローンに舵を切り始める大手ドローンベンダー

三大ドローンベンダーのうちの二社、仏Parrot社と米3D Robotics社が、相次いでリストラ策を発表した。またクラウドファンディングで資金を集めた米Lily Robotics社も破綻した。コンシューマ向けドローン市場は踊り場なのか。その原因について分析し、日本を含めた産業向けドローンの今後を考察する。(田中亘)


苦境に立つ大手ドローンベンダーと一人勝ちの“中国シリコンバレー”深セン

日本でも数多くのバックオーダーを抱えたヒット商品のDJI Mavic Pro

 仏Parrot社と米3D Robotics社が発表したリストラ案の基本は、コンシューマ向けドローン市場への投資を抑制して、産業向けドローンに注力するというもの。世界的に有名なドローンベンダー二社が、相次いでリストラを発表した背景には、コンシューマ向けドローン市場で、中国DJI社の一人勝ちという理由がある。また米Lily Robotics社の破綻にも、中国のZEROTECH社が発売した小型高性能ドローン「Dobby(ドビー)」などの影響が大きい。
 コンシューマ向けドローン市場は、決して縮小しているわけではなく、潜在的な需要はまだまだある。しかし、仏Parrot社と米3D Robotics社、そしてスタートアップの米Lily Roboticsが失敗した原因には、ある共通点がある。それは、自国に優れた生産基地がなかった点だ。いま世界のベンチャー企業やスタートアップが、中国DJI社の本拠地である深センに引き寄せられている。深センは、中国の経済特区として1980年代から外国の企業や投資を集めてきた。
 現在は「中国のシリコンバレー」とも呼ばれ、ハイテク関連の製造工場や関連する部品メーカーなどが数多い。また市内には、日本の秋葉原を圧倒的に上回る電子街があり、製造系ハイテク関連のスタートアップ企業にとっては、あらゆる電子部品や工作装置に困らない街となっている。さらにドローン産業においても、中国の規制が緩いという利点があり、街中でも平然と飛ばしている状況もある。その上、フランスやアメリカに比べれば、中国の生産コストは安い。特にソフトウェアの面で、優秀な人材を低いコストで雇用できるかは、競争力の差につながる。
 こうした恵まれた開発と製造の環境があるかどうかは、コンシューマ向けドローンベンダーにとっては、大きなアドバンテージとなる。その差が、三大ドローンベンダーの勝敗を決定づけたといえる。

自撮りドローンとしてダークホースのように人気を集めたDobby

コンシューマ向けドローン市場の今後

ホビイストから高い支持を得ていた3D Robotics社のIRIS

仏Parrot社と米3D Robotics社の事業方針の転換と米Lily Robotics社の破綻は、コンシューマ向けドローン市場が縮小していくことを意味するのだろうか。筆者としては、違うと考えている。
 まず仏Parrot社は、コンシューマ向けドローンの製品ラインナップを広げすぎた点に敗因がある。日本では、AR.DroneやBebopなどが有名だが、その他にもトイドローンから車輪のついたものまで、覚えきれないほどのコンシューマ向けドローンがある。急速に手広く事業を展開し過ぎたために、事業を再整理せざるを得なくなったのだ。
 米3D Robotics社は、コンシューマ向けに開発したSOLOの失策がある。SOLO以前に製品化していたIRISというドローンは、簡素な作りながらオープンソースのフライトコントローラーとGoProを搭載した空撮の魅力で、マニアを中心に支持を得ていた。このIRISからDJIのPhantomに対抗するSOLOを急速に製品化したことで、数多くの課題に直面したのだ。結果として、現在はSOLOにSONY製の高性能なレンズ交換式ミラーレスカメラを搭載し"A tool,not a toy"というキャップスレーズで、新たな事業展開のフェーズに入っている。
 そして米Lily Robotics社は、「自撮りドローン」の製品化の遅れが、最大の原因だ。クラウドファンディングで40億円を調達した時点では、潜在的な需要があることを明確にした。しかし資金の調達から製品化までに時間がかかり過ぎたことで、Dobbyのようなダークホースに敗退したのだ。Dobbyが成功した理由の一つが、クアルコム社のコストパフォーマンスに優れた制御回路を採用し、それに付随するソフトウェア開発の面で中国サンダーコム社などの協力を得た点にある。

 ドローンは、モーターやバッテリーなどのアナログ部品と、フライトコントローラーやカメラ制御などのデジタル技術を高度に融合させた製品。それだけに、開発にはメカとソフトに秀でたエンジニアが数多く求められる。そのリソースを短期間にコスト効率よく投入し製品化しなければ、国際的な競争には対抗できない。コンシューマ向けドローン市場は、今後も決して縮小することはないと思うが、消費者のニーズに応える製品をタイムリーに投入できるかどうかが、ドローンベンダーに問われている。

高性能なデジタルカメラを搭載し産業向けに戦略を変えた3D Robotics社のSOLO

日本発となる産業用ドローン興隆への期待

 第2回ドローンタイムズセミナーの基調講演で、ドローン議連の田中和徳衆議院議員が、ドローンの部品や素材における日本の強味について触れている。(https://www.dronetimes.jp/articles/766)
 その資料によれば、炭素繊維強化プラスチックやブラシレスモーターにリチウムイオン2次電池、高性能なデジタルカメラやコネクタ類などは、産業向けドローンにとって、必須の部品となっている。具体的には、ドローンを構成する機体とプロペラを回すモーターに、電源を供給する電池、そして空撮で使われるカメラなどは、世界的に見ても日本製品に優位性がある。コンシューマ向けドローンでは、世界、特に中国には対抗できないが、産業向けドローンの開発においては日本にも、まだ十二分に競争していける可能性がある。それだけに今後は、その産業の芽を育てる市場の創造が重要になる。
 i-constructionや精密農業に物流など、産業向けドローンを活用する事業の創生には、国家としても取り組んでいる。しかし日本のドローン産業が継続的に成長するには、短期的な補助金の交付ではなく、産業として収益の得られる事業構造の確立が求められる。そのためには、産業向けドローンが「高精度な空のセンサーデバイス」として進化し、社会や事業の課題を解決する存在にならなければならない。その鍵を握るのは、ドローンを活用したデジタル技術を駆使できるエンジニアの存在と、センサーデバイスとしてのドローンによるソリューションを創造できる事業者になることだ。

日本のドローン産業の鍵を握るのは社会課題の解決力

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