水中ドローンPowerRayの産業用途への模索

水中ドローンPowerRayの産業用途への模索

欧米ではクルーザーのオーナーなどを中心に販売を拡大しているPowerVision社の水中ドローンPowerRay。日本でも、釣具を取り扱う販売店やレジャー用ボートのユーザーを中心に、販売が拡大している。その一方で、PowerRayを水中の工事などで活用しようという取り組みもある。その最前線を取材した。(田中亘)


潜水士に頼っている水中工事の現状と課題

 日本の大手建設企業の中でも、海岸や海中などの水際や水中を中心に建設事業を手掛ける大手ゼネコンは、マリコンと呼ばれている。マリコンの多くは、埋立や浚渫に護岸工事をはじめ、防波堤や海底工事に橋梁基礎工事、さらには海底トンネル工事など海洋土木工事全般および港湾施設の建築工事を請負う。こうした海洋土木工事の多くは、水上や水中に特化した建設機材と、水中での作業を補助する潜水士によって支えられている。水上の作業員は、クレーンなどの重機を使って、海中に土のうや埋め立て用の資材を施設するが、その正確な位置や施設の確認などは、海中の潜水士が対応している。
 しかし、潜水士による対応には、水圧などの負荷から作業時間に限りがある。そのため、多くの潜水士は工事を補佐するために水中にいることから、工事の進捗状況などを確認したり報告するための時間を割くのが困難な状況にある。こうした現状を改善するために、何社かの大手建設会社では、水中ロボットによる確認に取り組んでいる。例えば、2017年には、大手ゼネコンが水中で鮮明な映像を撮影する水中インフラ点検ロボットを開発している。この水中ロボットは、約130kgの重量があり推進100mに対応する。水中インフラの老朽化は、地上の建造物と同様に深刻な問題となっているだけに、水中インフラ点検ロボットの需要は高く、マリコンによる海洋土木工事などでも、潜水士による目視ではなく、ロボットによる点検が期待されている。

PowerRayは潜水や浮上時に本体の中央にある推進装置で海水を吸い上げるため海底のドロなどを巻き込んでしまう

PowerRayに期待を寄せる海洋土木工事の進捗管理

 今回、匿名を条件に取材に応じてくれた大手建設会社の工事監督者によれば、大型の水中インフラ点検ロボットは、日常的な進捗管理のような用途には、オーバースペックだという。大人4人がかりで運搬する約130kgというロボットでは、毎日のように使うことは困難で、運用管理や経費の負担も大きくなる。そこで、監督者が注目したのが、PowerVison社のPowerRayだったという。その理由は、価格の安さと水中で4k動画を撮影できるカメラの性能だった。PowerRayならば、海洋工事の関係者に迷惑をかけることなく、手軽に海中の様子を確認できると考えたのだ。しかし、実際に導入してみると、いくつかの課題も浮上したという。
 まず、工事の対象となる海中は、想像していたよりも透明度が低いため、PowerRayの照明を使っても鮮明な映像を写しにくい状況にあった。また、PowerRayのカメラは本体の前方にあり、機体の進行方向を撮影するため、海中に積まれた石やシートなどの施設を写そうとすると、高度な操縦テクニックが求められるという。具体的には、少し下向きに前進するような操作で移動させることで、カメラを一定方向に向けて撮影できるそうだ。そして、運用面で課題となったのが、PowerRayのケーブルだった。海中の工事現場には、位置などを確認するため海中に杭が打たれていたり、ブイが浮かんでいる。そうした障害物にPowerRayのケーブルが引っかかってしまうと、思うように移動できなくなる。試験的な運用中にも、何度かケーブルが障害物に引っかかり、手で手繰り寄せて機体を回収したことがあったという。さらに、海底にドロやゴミが多い現場では、PowerRayの動力部に深刻な影響を及ぼす心配もある。機体が浮上するときに、下から水を取り入れるため、ドロやゴミがスクリューに付着してしまうのだ。こうした課題が指摘される背景には、それだけ真剣に海中工事の現場でPowerRayを活用したいと取り組んでいる実態がある。

海底のドロなどを防ぐフィルターを日本で独自に開発するPowerRay

課題は多いが大きな可能性を感じる水中ドローンの産業活用

自由な角度で海中土木の様子を撮影できる工夫を模索する

 PowerRayによる海洋工事の試験的な進捗管理に挑んだ海洋工事の監督者は、いくつかの苦労を経験したものの得られた成果も多かったという。何よりも、これまで潜水士しか目にしたことのない海中の様子を4k動画で撮影し、多くの工事関係者で共有できた点を評価している。見えなかった海中が可視化されたことで、工事に対する正確さや安全性の向上が期待できるという。
 一方で、PowerRayに対する要望も多くなった。まず、ケーブルの取り扱いへの改善要求は高い。理想はコードレスだが、水中は電波が届かないので難しい。そのため、少しでも細くて軽いケーブルへの期待が高い。また、カメラの向きやコントロールへの要望も強い。この点について、PowerVision社では近くオプションのカメラを販売する予定があるという。水中ソナーを取り付けられる部分に、角度の調節が可能なカメラを装備する計画がある。そして、海底のドロなどを吸い込んでしまう問題は、機体にフィルターを取り付けるなどの対策を検討している。
 水中の進捗管理という用途にとっては、まだまだ課題のある水中ドローン。だが、多くの課題は今後の研究開発や技術革新によって解決される可能性は高い。レジャー用途に開発されたPowerRayが、海中工事という産業用途で活用されることにより、新たな需要に対応する進化を遂げるかもしれない。

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