【2017蔵出し】新宿にドローン再び 「新宿ならでは防災」の確立へ一歩

【2017蔵出し】新宿にドローン再び 「新宿ならでは防災」の確立へ一歩

 工学院大学、損害保険ジャパン日本興亜株式会社、株式会社理経など新宿駅周辺防災対策協議会メンバーの企業などが構成する「チーム・新宿」は12月12日、高層ビル街での災害対策の一環として、ドローンや自家通信網を活用した情報収集、滞留者に対する音声での情報伝達、テレビ会議システム活用による情報共有実験を実施した。


ドローンの映像で俯瞰し情報を共有 音声で滞留者に呼びかけ

 実験には「チーム・新宿」に加え、株式会社NSi真岡、アイベックステクノロジー株式会社、日東通信株式会社、株式会社ブイキューブロボティクス、一般財団法人公園財団、株式会社システムファイブ、日本電気株式会社(NEC)が協力した。
 実験が行われたのは平日で、約1万3000の事業所がビジネスを展開している時間帯で、防災の仕組みを機能させるためのデータ取得を目的に行われた。
実験で使ったドローンはDJI M-600と M-210で、いずれも損保ジャパンが業務で使うために本社に常備している機体だ。M-210は上空から地域を俯瞰した映像を撮影、伝送する役割、M-600はスピーカーを搭載し滞留者に音声で非難誘導をする役割を担った。機体はいずれも新宿中央公園で離発着し、実験中は周辺の立ち入りを制限した。
 実験では、ドローンで災害時の状況を把握したうえで、公園近隣の工学院大学に設置された「西口現地本部」と、新宿区役所に設置された「新宿区対策本部」との2地点と、長距離無線LAN(4.9GHz帯)を使ってリアルタイムで共有できるかどうかを試した。また、公園への誘導の適否の判断、非難場所の安全性の把握、管理者への適切な指示、滞留者への音声による情報発信も実施した。また、公園に居合わせた人々に協力を呼びかけて、非難誘導が有効に機能するかどうかを確認する「スタンプラリー」もシナリオに盛り込んだ。
 当日は午前10時からドローンのフライトや、機器の調整を繰り返し、11時ごろから大規模地震が発生した想定で、ドローンをフライト。パイロットは損保ジャパンの損害調査企画室技術部長、高橋良仁氏で、ほかに損保ジャパンの4人と、NSi真岡の2人が待機した。機体は新宿の構想ビル街を背景に青空に浮かび安定的に飛行。しかし、電波状況には不安が残った。実際、ドローンから送られてくる映像が途切れがちだった。
 また、スピーカーを搭載したドローンは、1回目のフライトで音声を発すことがなく、2回目では音声は出たものの、多くの人が内容を正確に聞き取れるまでの明瞭な声ではなかった。
 ドローン離発場、西口現地本部、新宿区対策本部の3点間を結んだ会議システムは、相互に意志疎通ができることは確認できたものの、やはり映像や音声が途切れるケースがみられた。
 何度かフライトをやり直した結果、予定していた実験時間がたりなくなり、スタンプラリーのように一般の参加者を募る非難誘導デモンストレーションは想定していたシナリオを簡略化、短縮化した。
 それでも平日に、高層ビル街でドローンを飛ばし、長距離会議システムを活用し無線LANの実用性も確認できたことで、これまでになかった情報を取得することができた。

新宿の高層ビルの谷間をスピーカー内蔵の大型ドローンM600が飛行した=12月12日、東京都新宿区の新宿中央公園

「これから高いハードルを設定し、クリアしたい」

 実験でドローンを操縦した損害保険ジャパンの高橋良仁氏は「飛行エリアは前回よりも広く、それでも飛行そのものは安定的にできた。都心の高層ビル街を平日にフライトさせることによって制約もあることがわかった。細かいことはこれから精査することになるが電波干渉の影響がみられた。こうしたフライトデータが取れたことに大きな価値がある。今後も高いハードルを設定してクリアしていきたい」と感想を述べた。
 また理経防災情報システム営業部の竹内啓二氏は「アプリケーションをのせてためしてみた。会議システムなどが実用可能であることもわかり、容量の問題はなかった。最後にドローンからの音声を出力に問題があったので、そういった課題を洗い出して対応を練りたい。機器にはどうしても相性のよしあしが機能に影響することがあるので、そこも今後確認していきたい」と話した。
 SOMPOリスケアマネジメント、BCMコンサルティング事業部の新藤淳氏は「都心の高層ビル街で、平日、昼間のデータが取得できたことがなによりも大きい」と述べ、「滞留している人に、どういう声であれば聞き取りやすいのか、といった観点からも研究をしたい」と抱負を述べた。
 工学院大学の村上正浩教授は、実証実験の意義について、「新宿駅周辺エリアでなんとかドローンを実装させたいという発想がある。今回は現地対策本部を設置し、判断をしたり、検討をしたりすることもしなければいけない中で実験を行った。結果として、音声や映像が途切れるという課題があがってきた。音声ではビル街での反響をどう考慮しなければいけないことも、想定はしていたけれども、やはり検証が必要なことが確認できた。同時に情報収集として可能性も見えてきた。画像、動画がリアルタイムで解析できるようになれば有効に機能すると考えている」と概観した。

今回全てのフライトは損害保険ジャパンの高橋良仁氏が担当した(左から2人目)。「電波が途切れる場合があり、最後の飛行では操縦する位置を変えてみた」など試行錯誤を続けていた。

事業活動で培った高い専門技術、知識を、地域の安全なまちづくりに

 1万3000の事業所が集積する新宿駅周辺では、企業、商業施設、集客施設、商店街、鉄道、ライフライン機関、警察、消防が参加する「新宿駅周辺防災対策協議会」があり、官民が連携して防災、減災活動に取り組んできた。
 この地域で大規模地震が発生すると、多くの滞留者を混乱に陥れる恐れが想定されることから、協議会は2009年3月、自助(組織は組織で対応する)、共助(地域が連携して対応する)、公助(公的機関は地域をサポートする)の3点を盛り込んだ「新宿ルール」を発表、2016年6月に「新宿ルール実践のための行動指針」も策定した。
 協議会は、「現地本部」を中心に関係者がそれぞれの役割を基づいた活動をすることで、混乱を最小限に抑えることを目指していて、「現地本部」は、周辺事業者の情報交換の拠点、地域の応急救護の情報拠点、地域の災害対応活動の支援拠点の3つの役割を担うことに定めている。
 滞留者に対しては、事業者、行政が状況を俯瞰的に把握し、適切に判断し、活動することが求められるが、現状では、限られた場所に設置された無線などによる連絡や、口頭での連絡以外に有効な手段がなく、改善が急務になっていた。ドローンの活用にめどがつけば課題解消に大きく前進することになる。
 協議会では、今回の実験で得られたデータも活用し、新宿駅周辺に拠点を構える企業、団体が事業活動で培った専門技術や知識を安全なまちづくりという地域貢献にいかす「新宿ならでは防災」の確立を目指す。将来的には他地域の協議会との連携も視野に入れる。

プロポのモニターには西新宿のビル街が映し出されていた。

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